私の場合

3年前、某急性期病院にいたころ。当直中に電話。外泊中の患者の家族からで「外泊中のものだが、呼吸が苦しいと言っているので今から救急車で帰りたい」とのこと。救急車?とは思ったけど「どうぞどうぞ」と返事。続いて救急隊から電話。「心肺停止です、今から向かいます!」
…ちょっと待ってくれ。呼吸が苦しいってそのレベルかい! 大慌てで当直師長に連絡しフル装備で待機。10分後救急隊が心マとマスク換気しながらやってきた。モニター付けると心停止。(対処が簡単な)VFではない。挿管して聴診。右の音が弱い…。ボスミン入れて心拍が戻ってきた。でも、酸素飽和度の上りが悪い。チューブを少し抜いたが右の音が悪いのは相変わらず。
「深く入ったなら左だし、アンビュにも違和感を感じる…」挿管後の確認のレントゲンに答えはあった。
確認後取りあえずすぐさま右の胸壁にサーフロー3本刺しました。右の気胸でした。縦隔偏位はなく緊張性ではなかったのでもともとCOPDで呼吸機能が悪く、気胸が起こっては耐えられなかったということ。ドレーン入れて、改善。無事に人工呼吸からも離脱できました。
これは本当に僕が幸運だったという話。考えるだけでも

  • 家族が救急車を呼んでくれたこと
  • 救急隊がしっかりBLSしてくれたこと
  • 患者の自宅が病院に近かったこと
  • 挿管・強心剤でとりあえず心拍が再開してくれたこと
  • サーフローをさすまで患者の生命力がもってくれたこと

このどれが欠けていても、この患者が生き返ることはなかった。それは僕の技量云々の問題ではない。だが、もしこの患者が死んだとき、問題になるのは上のどれかが欠けていたというのではなく、むしろ下のこと。

  • 心肺蘇生は何の問題もなく行われていたか
  • VFよりも先に気胸を疑うべきではなかったか
  • レントゲンを撮る前にサーフローを刺していれば助かったのではないか

この患者の挿管は1回で入ったが、たとえば1回食道挿管して、聴診後入れ直していたとしたら、それはもう、十分なウィークポイント。そうでなくとも「緊張性気胸ならレントゲン取る前にドレナージ」とはそれこそどの教科書にも書いてある(正確にはこの症例は緊張性気胸ではなく、気胸によって呼吸不全が生じ心肺停止になったのだが、そんなこと、きっと警察やマスコミは区別して書いてくれない)なぜレントゲンを待ったと言われたら、どうやって反論すれば良かっただろう。その時の自分は実際には待ったのではなくやれることを一つ一つやっていただけ。後から見直せば完璧じゃない処置なんていくつでも指摘できる。
だけど、大事なのは下の3つではなく、上の5つ。繰り返すが上の5つが満たされずにこの患者が助かることはなかった。そういう意味では僕も患者も運が良かったのだろう。
でも、一歩間違えれば助けられず、その時訴えられていたのは自分と考えると無邪気に喜んでもいられないわけで…。