奈良の妊婦死亡に関して

奈良・妊婦転送死亡:遺族、大淀町と担当医提訴 「異常見過ごした」
http://www.mainichi-msn.co.jp/science/medical/news/20070524ddm041040036000c.html

奈良・妊婦転送死亡:遺族、大淀町と担当医提訴 「異常見過ごした」

 奈良県大淀町大淀病院で昨年8月、同県五條市の高崎実香さん(当時32歳)が分娩(ぶんべん)中に意識不明となり、転送先で脳内出血で死亡した問題で、遺族は23日、病院を経営する大淀町と担当産科医を相手取り、慰謝料など損害賠償を求める訴訟を大阪地裁に起こした。「大淀病院の担当医が脳の異常を見過ごしたことが死亡につながった」と過失責任を主張している。

 提訴したのは夫晋輔さん(25)と、転送先で生まれた9カ月の長男奏太(そうた)ちゃん。訴状によると、実香さんは昨年8月7日、出産のため大淀病院に入院。翌8日午前0時ごろ頭痛を訴えた後、突然意識を失った。

 産科医は頭痛と陣痛から来る失神と説明し、仮眠のため退室。同1時40分ごろ、両腕が硬直するなど脳内出血をうかがわせる症状が表れたが、来室した産科医は子癇(しかん)発作(妊婦が分娩中に起こすけいれん)と誤診して処置をせずに病室を離れ、同4時半ごろまで病室に来なかった。

 病院は同2時ごろまでに転送先探しを始め、実香さんは19病院で転送を断られた後、大阪府吹田市の国立循環器病センターに同6時ごろ到着。CT(コンピューター断層撮影)で右脳に大血腫が見つかった。奏太ちゃんは帝王切開で生まれたが、実香さんは8日後に死亡した。

 死亡診断書では同センター受診時、実香さんの意識が刺激にまったく反応しないレベルに達していたなどとする記載があり、遺族は「脳内出血の発症は午前0時ごろ」と主張。「これ以降、家族らが再三脳の異常を訴えたのに産科医はCTなどの検査をせず、手術でも回復しないほど脳内出血を進行させた」としている。

 大淀病院の原育史(やすひと)院長は「今後、司法の場において(立場を)明らかにしてまいりたいと考えております」とのコメントを出した。【中村敦茂】

 ■解説

 ◇病院は真相究明を

 奈良・大淀病院の妊婦死亡問題は、遺族と病院側が法廷で争うことになった。現状では、遺族が死亡の真相を知るには民事訴訟しかないからだ。裁判になると、原告、被告双方の目的は勝つことになるが、悲劇を繰り返さないため、病院には遺族と協力して真相究明する道を模索してほしい。

 医療崩壊が叫ばれるなか、特に出産を巡る医療訴訟の多さは、深刻な産科医不足の原因の一つに挙げられる。訴訟リスクを避けることなどを理由に、産科を敬遠する医師が多いからだ。医師の中には「100%の安全はあり得ない。患者側は出産の危険を理解していない」などと、訴えを起こす患者や家族を批判する声もある。だが、今回は、こうした批判は当てはまらない。

 高崎実香さんの死後、夫晋輔さんら遺族は何度も病院に「真実を聞きたい」と話し合いを求めた。しかし、1回目は担当した助産師が不在。2回目は病院側の態度が一転し、弁護士が間に入って「誤診ではない」と言うばかりだったという。病院が説明を尽くさない場合、医療事故の当事者は警察の捜査や民事訴訟に頼るしかない。県警が立件を断念したため、遺族は提訴に踏み切った。

 訴訟によらない解決の試みも始まっている。東京女子医大病院は、心臓手術後に死亡したり障害を負った患者・家族を交えた内部調査委を設置し、これまで8組と示談が成立した。また、厚生労働省は医療版「事故調査委員会」設置の検討を進めている。被害者救済と医療水準向上のためにも、議論を急ぐ必要がある。【根本毅】

真実を知りたいのならば、民事訴訟はほぼ最悪の方法である。
■■■以前mixiで書いた日記
訴訟は戦いだ。
原告も被告も勝つための手段を必死で探す。
勝てないと判断したならば、何とか有利な条件で和解できないか模索する。
担当弁護士は「自分側に有利な」鑑定書を探し回る。

当然原告と被告では真っ向から主張は多くの場合対立する。
裁判所は「本当はどちらが真実であったか」をその相反する2つの主張を見て判断する。原告側の主張は原告に都合のいいことしか書いていないだろうし、被告側も同様である。
その2つを見て、「真実がどこにあるか」を裁判官は探す「ふりをする」。
実際にはそれぞれの事項に対してどちらに説得力があるかを見定めているだけ。
「あんたら二人ともおかしい。真実はこれ」
こんなことを言う判決は見たことがない。

判決が出るまでには何回も法廷は開かれる。そのたびに互いに法廷戦術を繰り広げ、敵対する。おそらくは最初にあったであろう医師患者の良好な関係は完膚なきまでに破壊される。
それだけではすまない。結果にかかわらず患者はほかの医師に対して不審を抱き、医師もほかの患者に対して「こいつも訴えるのではないか」と考える。ひとつの訴訟が二人の人間の今後の人生を変えてしまう。

そもそも患者は何を求めて訴訟を起こすのだろうか。
1)真実が何かを知りたいから
2)二度と同じような被害者が出ないようにしてほしいから
3)医療機関・医療従事者に謝罪をしてほしいから
4)被った経済的・精神的・肉体的被害をお金という形で賠償してほしいから
5)憎き医療従事者に訴訟というストレスを与えることで復讐したいから
思いついたのはこんなとこ。上ほど建前できれいな動機。下はどす黒くて、汚いけど、たぶんこんな本音の動機も患者さんにはある。
訴訟がこれらの目的を果たすだろうか。

1)訴訟で医師側が真実を認めるのは、「どうがんばってもこれは言い逃れができない」というときのみ(印象を少しでも良くするため)。それ以外は自分に都合のいいことしか証拠に出さないだろう(もっともそれが真実であることも多いのだが、訴えた人間はそれを認めない)。仮に裁判官が原告の主張を認めても、それが真実であることにはならない。
2)「なぜ医療事故が起こったか」ということを裁判は問題にしない。「何が起こったか」である。また、訴訟はたいていの場合個人の責任を追及するのみで、その裏にあるシステムの不備は問題にしない。そのため、再発防止には多くの場合ならない。
3)医療機関が敗訴をしても、控訴することが多い。和解へと至ったときは謝罪に結びつくかもしれない。しかし、和解の場合、細かい条件は公表されないため、その場で謝罪が為されているかどうかは私は語る能力を持たない。
4)これは最近、訴訟では期待できる効果である。たとえ原告の主張に説得力がなくとも、裁判官は「温情判決」あるいは「温情和解案」を出してくれるため、原告全面敗訴になるケースは減ってきた。しかしながら、原告も弁護士費用を出さねばならず、認定額によっては全てが弁護士費用に消える場合もある。
5)訴訟は多くの医療従事者に対して多大なストレスとなる。非常に効果的である。時間も労力もかかるため、特に公的病院においては安易に和解に逃げる傾向がある。もしこの目的を果たそうとするならば、安易に原告は和解に応じてはいけない。

こうしてみると、訴訟は「本音」の目的に対してはそれなりに有効である。
逆に
1)ならば病理解剖→CPCが患者さんに何が起こったのか一番真実を調べることができるだろう。患者さんが死亡しなければできないのが欠点だが。(余談だが、患者が死亡したとき、病理解剖を希望しないにもかかわらず「真実が知りたい」と訴訟を起こす患者家族は少なくない。死んだ家族を傷つけたくないという感情が存在するからであろう)
2)についても訴訟ではなく、病院との話し合い(で、CPCやカンファレンスでの検討の説明を受ける)を行い、何が問題であったかを調べた方がいいであろう。今はまだないが、第3者機関による医療事故の検討も有効である。(第3者機関については別エントリで)
3)医療過誤ならいざ知らず、医療事故で医療機関は安易に謝罪すべきではない。個人ではなく、システムに事故の原因があるかもしれないからである。安易な謝罪によってシステムの見直しを図らないことは、逆に真実の追究を困難にする。
と、「建前」の目的に対してはあまり有効ではない。

訴訟に関するニュースでは「建前」の目的がクローズアップされ報道される(あたりまえだ)。もし、馬鹿正直に建前の目的しか持っていないとしたら、その患者・家族は手段を見誤っていると僕は思う。
■■■
じつは真実を得るのに一番いい方法は、「カルテ・写真をオープンにして第三者に意見を求める」だと思う。で、それはネット医師によってなされかけていた。だが言い方は悪いが、それによって見えてきた事実は遺族にとっては都合の悪い真実だったのだろう。カルテ流出を問題にすることで蓋をすることにしたらしい。

もし、真実を知りたいというのならば、この民事訴訟で敗訴(おそらく最高裁まで行くだろうけど)したとしても原告は受け入れるべきだ。ネットと司法の場、2回事実認定されているのだから。
逆に和解勧告があっても同意してはいけない。それは病院が真実を隠そうとして裁判の打ち切りを求めているに過ぎないのだから。

毎日新聞にも物申す。
弁護士を通じて話をするのは国民の権利であるし、それ自体を批判されるいわれはない。病院が「ミスはない」ということを信じているのであれば当然回答はそのようにしかならない。それを説明を尽くしていないと表現するのはおかしい。

医師の中には「100%の安全はあり得ない。患者側は出産の危険を理解していない」などと、訴えを起こす患者や家族を批判する声もある。だが、今回は、こうした批判は当てはまらない。

これはどういう意味か。
脳出血が起こったとしても100%救えという意味か。
それとも「僕ら心配してるのに、病院は最善を尽くしてくれなかったんです〜」とでもいいたいのか。
大淀病院は、「ネットでのカルテ流出」を見る限り、最善の行動を尽くしている。
マスコミが勉強不足の先入観でものを述べるから、現在の医療不信があるのではないのか?